Ruby 2.7.0 リリース

Ruby 2.7シリーズ最初の安定版である、Ruby 2.7.0がリリースされました。

Ruby 2.7には、多くの新しい機能やパフォーマンスの改善が含まれます。 その一部を以下に紹介します。

Pattern Matching [Experimental]

関数型言語で広く使われているパターンマッチという機能が実験的に導入されました。 渡されたオブジェクトの構造がパターンと一致するかどうかを調べ、一致した場合にその値を変数に代入するといったことができるようになります。 [Feature #14912]

require "json"

json = <<END
{
  "name": "Alice",
  "age": 30,
  "children": [{ "name": "Bob", "age": 2 }]
}
END

case JSON.parse(json, symbolize_names: true)
in {name: "Alice", children: [{name: "Bob", age: age}]}
  p age #=> 2
end

詳細については Pattern matching - New feature in Ruby 2.7 を参照してください。

REPL improvement

Ruby に添付されている REPL (Read-Eval-Print-Loop) である irb で、複数行編集がサポートされました。これは reline という readline 互換のピュア Ruby 実装によるものです。 また、rdoc 連携も提供されるようになっています。irb 内で、クラス、モジュール、メソッドのリファレンスをその場で確認できるようになりました。 [Feature #14683], [Feature #14787], [Feature #14918] これに加え、binding.irbで表示される周辺のコードや、コアクラスのオブジェクトのinspect結果に色がつくようになっています。

Compaction GC

断片化したメモリをデフラグするCompaction GCが導入されました。

一部のマルチスレッドなRubyプログラムを長期間動かし、マーク&スイープ型GCを何度も実行していると、メモリが断片化してメモリ使用量の増大や性能の劣化を招くことが知られています。

Ruby 2.7ではGC.compact というメソッドを導入し、ヒープをコンパクションすることが出来るようになります。ヒープ内の生存しているオブジェクトを他のページに移動し、不要なページを解放できるようになるとともに、ヒープをCoW (Copy on Write) フレンドリーにすることが出来ます。 [Feature #15626]

キーワード引数を通常の引数から分離

キーワード引数とpositionalな引数(ふつうの引数)の間の自動変換が非推奨となりました。この変換はRuby 3で除去される予定です。[Feature #14183]

以下、変更点のみを列挙しますが、詳しくは解説記事(Separation of positional and keyword arguments in Ruby 3.0)をご参照ください。

  • メソッド呼び出しにおいて最後の引数としてハッシュオブジェクトを渡し、他にキーワード引数を渡さず、かつ、呼ばれたメソッドがキーワード引数を受け取るとき、警告が表示されます。キーワード引数として扱いたい場合は、明示的にdouble splat演算子(**)を足すことで警告を回避できます。このように書けばRuby 3でも同じ意味で動きます。

    def foo(key: 42); end; foo({key: 42})   # warned
    def foo(**kw);    end; foo({key: 42})   # warned
    def foo(key: 42); end; foo(**{key: 42}) # OK
    def foo(**kw);    end; foo(**{key: 42}) # OK
    
  • キーワード引数を受け取るメソッドにキーワード引数を渡すが、必須引数が不足している場合に、キーワード引数は最後の必須引数として解釈され、警告が表示されます。警告を回避するには、キーワードではなく明示的にハッシュとして渡してください。このように書けばRuby 3でも同じ意味で動きます。

    def foo(h, **kw); end; foo(key: 42)      # warned
    def foo(h, key: 42); end; foo(key: 42)   # warned
    def foo(h, **kw); end; foo({key: 42})    # OK
    def foo(h, key: 42); end; foo({key: 42}) # OK
    
  • メソッドがキーワード引数を受け取るがdouble splat引数は受け取らず、かつ、メソッド呼び出しでSymbolと非Symbolの混ざったハッシュを渡す(もしくはハッシュをdouble splatでキーワードとして渡す)場合、ハッシュは分割され、警告が表示されます。Ruby 3でもハッシュの分割を続けたい場合は、呼び出し側で明示的に分けるようにしてください。

    def foo(h={}, key: 42); end; foo("key" => 43, key: 42)   # warned
    def foo(h={}, key: 42); end; foo({"key" => 43, key: 42}) # warned
    def foo(h={}, key: 42); end; foo({"key" => 43}, key: 42) # OK
    
  • メソッドがキーワード引数を受け取らず、呼び出し側でキーワード引数を渡した場合、ハッシュの引数としてみなされる挙動は変わらず、警告も表示されません。Ruby 3でもこのコードは動き続ける予定です。

    def foo(opt={});  end; foo( key: 42 )   # OK
    
  • メソッドが任意のキーワードを受け取る場合、非Symbolがキーワード引数のキーとして許容されるようになります。[Feature #14183]

    def foo(**kw); p kw; end; foo("str" => 1) #=> {"str"=>1}
    
  • メソッド定義で**nilと書くことで、このメソッドがキーワードを受け取らないことを明示できるようになりました。このようなメソッドをキーワード引数付きで呼び出すとArgumentErrorになります。[Feature #14183]

    def foo(h, **nil); end; foo(key: 1)       # ArgumentError
    def foo(h, **nil); end; foo(**{key: 1})   # ArgumentError
    def foo(h, **nil); end; foo("str" => 1)   # ArgumentError
    def foo(h, **nil); end; foo({key: 1})     # OK
    def foo(h, **nil); end; foo({"str" => 1}) # OK
    
  • キーワード引数を受け取らないメソッドに対して空のハッシュをdouble splatで渡すとき、空のハッシュが渡る挙動はなくなりました。ただし、必須引数が不足する場合は空のハッシュが渡され、警告が表示されます。ハッシュの引数として渡したい場合はdouble splatをつけないようにしてください。

    h = {}; def foo(*a) a end; foo(**h) # []
    h = {}; def foo(a) a end; foo(**h)  # {} and warning
    h = {}; def foo(*a) a end; foo(h)   # [{}]
    h = {}; def foo(a) a end; foo(h)    # {}
    

非推奨に関する警告を止めたい場合は、コマンドライン引数に-W:no-deprecatedを指定するか、コードの中でWarning[:deprecated] = falseとしてください。

主要な新機能

  • デフォルトのブロックの仮引数として番号指定パラメータが導入されました。[Feature #4475]

  • 開始値省略範囲式が試験的に導入されました。これは終了値省略範囲式ほど有用ではないと思われますが、しかし DSL のような目的には役立つかもしれません。 [Feature #14799]

    ary[..3]  # identical to ary[0..3]
    rel.where(sales: ..100)
    
  • Enumerable#tally が追加されました。各要素の出現回数を数えます。

    ["a", "b", "c", "b"].tally
    #=> {"a"=>1, "b"=>2, "c"=>1}
    
  • レシーバをselfとしてprivateメソッドを呼び出すことが許容されるようになりました。 [Feature #11297] [Feature #16123]

    def foo
    end
    private :foo
    self.foo
    
  • Enumerator::Lazy#eager が追加されました。lazyなEnumeratorを非lazyなEnumeratorに変換します。

    a = %w(foo bar baz)
    e = a.lazy.map {|x| x.upcase }.map {|x| x + "!" }.eager
    p e.class               #=> Enumerator
    p e.map {|x| x + "?" }  #=> ["FOO!?", "BAR!?", "BAZ!?"]
    

パフォーマンスの改善

  • JIT [Experimental]

    • 最適化の際の仮定が無効とされた場合、JIT 化されていたコードがより最適化度が低いコードに再コンパイルされるようになりました。

    • あるメソッドが「純粋」であると判定された場合、メソッドのインライン化が行われるようになりました。この最適化はまだ実験的であり、また多数のメソッドが今はまだ「純粋」と判定されないままです。

    • --jit-min-calls オプションのデフォルト値が 5 から 10,000 に変更されました。

    • --jit-max-cache オプションのデフォルト値が 1,000 から 100 に変更されました。

  • Fiber のキャッシュ戦略を変更することで、生成が高速化されました GH-2224

  • Module#name, true.to_s, false.to_s nil.to_s は常にfrozenな文字列を返すようになりました。返された文字列は常に同じオブジェクトとなります。 [Experimental] [Feature #16150]

  • CGI.escapeHTML のパフォーマンスが改善されました。 GH-2226

  • Monitor 及び MonitorMixin のパフォーマンスが改善されました [Feature #16255]

  • 1.9 から導入されたメソッド呼び出しごとのキャッシュが改良され、キャッシュヒット率が 89% から 94% に向上しました GH-2583

  • RubyVM::InstructionSequence#to_binary が生成するコンパイル済みバイナリのサイズが削減されました [Feature #16163]

その他の注目すべき 2.6 からの変更点

  • いくつかの標準ライブラリがアップデートされました。
  • 以下のライブラリは標準添付ライブラリから削除されました。2.7 以降で使いたい場合は rubygems から利用してください。
    • CMath (cmath gem)
    • Scanf (scanf gem)
    • Shell (shell gem)
    • Synchronizer (sync gem)
    • ThreadsWait (thwait gem)
    • E2MM (e2mmap gem)
  • profile.rb は標準添付ライブラリから削除されました。

  • 以下のライブラリが新たに default gems になりました。
    • 以下のライブラリは rubygems.org からアップデート可能です。
      • benchmark
      • cgi
      • delegate
      • getoptlong
      • net-pop
      • net-smtp
      • open3
      • pstore
      • singleton
    • 以下のライブラリはまだ rubygems.org から取得できません。
      • monitor
      • observer
      • timeout
      • tracer
      • uri
      • yaml
  • ブロックを渡すメソッド呼び出し中の、ブロックを伴わない Proc.newproc が警告されるようになりました。

  • ブロックを渡すメソッド呼び出し中の、ブロックを伴わない lambda はエラーとなるようになりました。

  • Unicode および Emoji のバージョンが 11.0.0 から 12.0.0 になりました。[Feature #15321]

  • Unicode のバージョンが 12.1.0 となり、新元号「令和」を表す合字 U+32FF がサポートされました。[Feature #15195]

  • Date.jisx0301, Date#jisx0301, および Date.parse で新元号に対応しました。[Feature #15742]

  • Ruby のビルドに C99 に対応したコンパイラが必要になりました。[Misc #15347]

その他詳細については、NEWS ファイルまたはコミットログを参照してください。

なお、こうした変更により、Ruby 2.6.0 以降では 4190 個のファイルに変更が加えられ、227498 行の追加と 99979 行の削除が行われました !

メリークリスマス、よいお年を、そして Ruby 2.7 で楽しいプログラミングを!

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Ruby とは

Rubyはまつもとゆきひろ (Matz) によって1993年に開発が始められ、今もオープンソースソフトウェアとして開発が続けられています。Rubyは様々なプラットフォームで動き、世界中で、特にWebアプリケーション開発のために使われています。